第一回キューバ日本シンポジウムにご参加の先生方、研究者、一般参加者の皆様
まず最初にこの度のシンポジウム「キューバの新時代」の開催を可能にして下さった神奈川大学と大きな熱意をもって準備して下さった先生方、研究者の方々に厚くお礼申し上げたいと思います。近年このようなシンポジウムが開かれるのは初めての事で、私達は両国の学術関係を強化する素晴らしい機会として高く評価しております。社会科学の面で様々な共通の関心テーマについてビジョンを共有し、近づける素晴らしい機会です。
シンポに参加するキューバ人講演者を改めて歓迎したいと思います。全員名声を博している研究者で、このシンポの全てのテーマそれぞれの権威です。彼らの知識と経験はシンポの結果を豊かにしてくれるでしょう。
またこの機会に、日本の専門家の方々にもご挨拶を送りたいと思います。すでに顔見知りになったいる方々もおり、我が国キューバの現実の客観的な姿を知らせてくださるとこに前もって感謝いたします。全ての方々に申し上げたいと思いますが、これは単に第一歩にすぎず、将来も系統的にこのようなシンポが開けるよう努力して行きたいと思っています。
友人の皆様
近年のキューバの歴史を振り返ることなしにキューバの現在と未来を語ることはできません。特にキューバ革命を発展させ、変革プログラムを前進させるためにキューバが直面せざるを得なかった逆境と目まぐるしく変化する状況を、です。その中で常に貫かれてきたのは主権の完全な行使と国家の独立への深い希求でした。
1959年1月1日の革命勝利によって、キューバの社会、経済で急進的な変革の過程が始まりました。そこでとられた様々な重要なアクションの中には、農地改革、主要な生産手段の国有化、識字運動、教育と医療の普遍化などがあります。それらの手段は、キューバに支配を拡大したいというアメリカの歴史的野望を強めることになりました。その結果、いかなる犠牲を払っても自由と独立を守り抜きたいというキューバ人の自決が強まりました。
主権を持つ真の独立国キューバがわずか90マイル先にあるという考え方は、米国にとって常に受け入れられないものでした。それが米国が常にキューバに敵対的な政策をとってきた理由です。甚大な人的物理的被害を生んだ様々な侵略行為、よく知られたテロ行為や転覆活動から系統的ジェノサイド的経済・貿易・金融封鎖に至るまで、キューバに対して可能な限りすべての方法が試されました。経済封鎖は50年以上も前から続いているもので、キューバが重要な国際金融機関や国の発展のために不可欠な機械類、技術、サービス、製品の主要な市場にアクセスするのを阻害してきました。その目的は公然と述べられているように、キューバ経済を窒息させ、革命への国民の支持基盤を切り崩すことにあります。これはアメリカ自身が言っていることです。
我が国は比較的短い期間に、国内的にも対外的にも新しい急激な政治・経済条件に適応せざるを得ませんでした。それは深刻な断絶を克服し、社会経済発展上の再調整を行うためでした。60年代、米国の封鎖政策導入によって、キューバは主要な市場を失いました。その30年後、ソ連と社会主義圏の消滅により、再び市場の80%を失い、GDPは35%下落しました。
2009年以降、我が国は経済社会モデルの更新に向けた大きな変革プロセスに取り組んできました。その目的はより広範な国民の参加を得て、キューバの現在と未来の条件の下で、我々が建設したいと願い、かつ建設できるような社会主義社会を建設することにあります。つまり、国民のためになる経済モデルを築き、その持続可能性と不可逆性を保証すること、それこそが真の独立を保障する唯一の道だからです。
諸政策を実施した結果、我が国は他の国々との貿易関係を拡大し、自営業および他の形態の非国営事業を徐々に増やすことができました。さらに債権者および貿易相手にたいし、キューバの国としての信用度を徐々に回復することができ、新たな貿易と外国ファイナンスの可能性が広がり始めています。
2016年末の数字で際立ったものの中には、出生千人当たり4.1という歴史上最も低い数字となった乳児死亡率、世界の上位25ヶ国に入る78.45歳という平均寿命があります。ユネスコによりますと、ラテンアメリカ・カリブ地域で2000年~2015年、「すべての人のための教育」世界目標を達成したのはキューバだけでした。
しかし、経済の分野では必要な速度で前進することができませんでした。過去数十年には、とくに社会主義圏崩壊と米国による経済・貿易・金融封鎖強化によって、低開発国という条件による独自の経済問題がさらに悪化しました。
未だ、重要な課題が残されています。キューバ経済の機能を歪める二重通貨・為替制、安定し秩序だったファイナンスへのアクセスを保証する金融機関との関係の欠如です。さらに、富の分配過程を、キューバ過程の社会性を放棄することなしに、徐々に変革して行くことも必要です。
キューバが必要とするのは、より高い成長率(5%~7%)を達成して発展につなげ、輸出の拡大と適切な代金回収を保証し、輸入削減を目指して国内生産を増やし、より多くの外的ファイナンスを得ることです。そうなれば、現在GDPの4%に留まり、短期融資でまあかなっているインフラ投資が増えることになります。
今年の成長率の目標は2%と発表されていましたが、昨年の0.9%のマイナス成長から出発することと不利な国際環境を考慮すると、実現は難しそうです。不利な国際環境とは、世界的経済成長の特徴に関連するだけでなく、トランプ政権が世界に、とくに我が国に作り出す不確実性にも関連するものです。それに加えて、我が国の現在の財政状態、とくに輸出代金の支払いと合意された支払い義務の厳密な履行があります。さらに、ハリケーン・イルマの被害によってその復旧のために急遽資金を回わすことを余儀なくされました。それら全ての要素が結びつき、経済・貿易面で新たな緊張状態が生まれています。
この困難な事態にたいし、キューバ政府は経済モデル刷新過程の一環として、引き続き新たな方策や政策を追求して行く必要性を繰り返し主張しています。その中には外国投資の拡大もあります。すでに現状に合わせたそのための政策と有利な法の枠組みも出来上がっているため、経済・社会発展へのこの戦略的部門の貢献を徐々に高めて行くことができるでしょう。ロドリゴ・マルミエルカ外国貿易・外国投資大臣が2017年ハバナ国際見本市開会式で述べたところによると、その時点で、今年は総額20億ドルのプロジェクトが契約され、年末までにその数字はさらに増える現実的な展望があるということです。これは以前の時期に比べてよりよい結果です。
すでに戦略的プロジェクトとして実施の決定的段階に入ったマリエル開発特区は、輸出創出、輸入代替促進、外国投資誘致、技術・ノウハウの移転、新規雇用創出、長期ファイナンス獲得などの目的達成に向けて、ますます力を発揮しなければなりません。同時にこれらは環境持続性、インフラ整備、高効率のロジシステムの構築をもたらす形で実現する必要があります。この試みにおいては、日本企業の参画はかつてないほど重要なものになります。
友人の皆様
最近の期間は、2015年半ばの国交回復後の対米関係前進の結果として、キューバの国際環境の実質的な進展の場となりました。また欧州連合EUとも政治対話と協力に関する合意が結ばれ、世界のその地域と我が国の関係が再び正常化されました。
対米関係では、オバマ政権とは二国間関係で重要な前進があり、両国関係の重要な分野での協力を開始、あるいは深めるための新たなチャンネルとメカニズムを作ることができました。オバマ政権時代には様々な方策がとられ、キューバはそれを前向きなことと評価していましたが、同時にそれらは我が国に対する政策の修正という面では、極めて限定的なものでした。封鎖はキューバ政策の基本的手段の一つとして維持されたままです。
さらに、最近米国国務・財務・商務省は対キューバ経済封鎖強化の政策を実施するための新たは規定・規則を発表しました。これは去る6月16日マイアミでトランプ大統領が発表した「対キューバ封鎖強化に関する国家安全保障大統領令」と題する指針の内容となっていたもので、この指針は我が国に対する米国政府の政策を確立するものでした。このことは、前大統領の前進の歩みを逆行させる施策の結果両国関係に生まれていた深刻な後退を確認するものでした。
新たな政策は封鎖を強化し、米国人のキューバ渡航を禁止するものです。このうちいくつかの措置は政府転覆という潜在的な意図を隠していません。例えば旅行者にある種の活動を実行してキューバ訪問の合法性を得るよう促しています。この政策の実際の導入は、国営部門、非国営部門を含めてキューバ経済に損害を及ぼすだけでなく、アメリカ市民のキューバへ旅行する権利にも害を与えています。米国は国民が自由に旅行できない唯一の国であり、そこにさらに大きく制限が加えられることになります。米国企業にも害が及びます。キューバに今日存在する重要なビジネスチャンスを失い、競争相手に遅れをとるからです。
このような意見が多数、米国の内外から挙がっており、キューバ政策見直しに断固反対し封鎖解除と関係正常化を支持する大多数の声がますます大きくなっています。その中には多くの共和党議員を含む多数の国会議員、経済界、米国市民団体、キューバ系移民団体、報道機関、ソシアル・ネットワーク、一般世論が含まれています。
反キューバ姿勢をエスカレートするトランプ大統領は、冷戦時代特有の古臭い攻撃的なレトリックを蘇らせ、さらにキューバに対する封鎖強化を正当化するためにキューバで人権侵害があるかのような使い古された議論を復活させています。人権問題に関しては、米国にはキューバのような広い国的活動の実績を高く評価されている連帯的な小国を問題にする道義的権威は微塵もありません。
憎悪と分断を刺激するプログラムに固執し、愛国主義の衣をかぶった特例主義、至上主義を振りかざしていますが、それはますます多くの暴力を誘発することになります。他方、封鎖撤廃を支持する米国民と在米キューバ人3分の2以上の人々の意思を無視しています。
それにもかかわらず、キューバは米国と懸案問題の交渉を続け、関係改善と両国と両国民を利する文明的な共存にむけて前進したいという意志を重ねて表明し続けます。相違点を尊重し合い、平等と相互主義の基礎の上に、我が国の主権と独立の尊重のもとで、
交渉を続けたいと表明しています。しかし、キューバが譲歩するとか原則を放棄するなど期待することは絶対にできません。
友人の皆様、
昨年はキューバと日本の関係にとって歴史的かつ画期的な年でした。2015年12月のパリクラブ合意を受けて、中長期債務の合意に向けた交渉が前進し、2016年9月、二国間合意が調印されました。6月のミゲル・ディアスカネル第一副議長の訪日と9月の安倍首相のキューバ訪問によって、両国関係は政治・国家レベルで強化され、二国間関係の更なる拡大・進化に向けた新たな段階の政治的基礎がつくられました。
今年は両国間の交流が深まり、高い成熟性に到達しました。それによって、経済貿易分野も含めてさらに広い分野で新たな潜在的可能性を見出すことができました。それはまた各自の功績とともに、全ての水準で重要なコンセンサスが得られたことの現われでもあります。これは両国関係を新たな水準で引き続き発展させて行くためのさらなる機会に転化するでしょう。
キューバは支払い義務を絶対的な厳密さと規律をもって履行してきましたし、今後も現行合意に基づいてそれを継続します。この意味で、我が国の経済開発計画に日本企業がより積極的に参画できる条件が整っています。日本企業の参加を実現することは、キューバにとって戦略的な重要性を持ちます。そのために優先部門への外国投資の機会とプロジェクトに関する情報を日本の官民両部門にすでに提供してあります。
来年はキューバへの日本人移民120周年、2019年は両国外交関係樹立90周年を祝うことになります。それによって、両国の交流をさらに強め、協力の可能性を探求することができるでしょう。学術分野の交流の拡大と強化も含めて、すべての貢献が、その望まれる目標の達成にとって引き続き重要な鍵となるでしょう。
ご清聴に感謝いたします。