ラテンアメリカ・カリブ海, 現状と展望

駐日キューバ大使カルロス・M・ペレイラ

大阪アジア・アフリカ・ラテンアメリカ連帯委員会主催シンポジウム

「ラテンアメリカ・カリブ海:危機の時代における選択と課題」における発言

2018年2月24日 

 

AALA大阪 理事長、すべての友人の皆様

 

まず始めに、本日の集いにわが兄弟国、ベネズエラ・ボリバル共和国セイコウ・イシカワ大使及び私をお招きいただき、皆様が深い関心を寄せておられるテーマについていくつかの見解をお話しする貴重な機会を与えてくださったことに対し、主催者の方々に感謝申し上げます。

 

私共の仲間かつ兄弟であるサウル・アラナ大使も本日、この会場に心を寄せています。私たちは今回の集いに向けて当初から共に協力して参りましたが、アラナ大使は本日、不可抗力の事情により皆様にお目にかかることはかないませんでした。

 

90年代にラテンアメリカの少なからぬ国々を打ちのめした新自由主義の長い夜(ラファエル・コレア大統領が呼んでいたように)を想起してみましょう。あの長い夜は1998年にウゴ・チャベスがベネズエラの大統領選に勝ち、地域の右翼・敗北主義諸政府が砂上の楼閣の如く崩壊し始めた、そのときまで続きました。

 

2009年の最盛期には、中南米10カ国中8カ国で左翼政府が政権を担いました。中米カリブでは、エルサルバドルの FMLN(ファラブンド・マルティ民族解放戦線)、兄弟国ニカラグアのサンディニスタ、グアテマラのアルバロ・コロン、ホンジュラスのマヌエル・セラヤ、ドミニカ共和国のレオネル・フェルナンデスです。グアテマラやパラグアイ(フェルナンド・ルゴ)では史上初めて左翼が政権の座に就き、数世紀に及ぶ二大政党制の伝統を破りました。

 

2010年に創設されたCELAC(ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体)は隆盛期を代表するものであり、加盟20カ国のうち14カ国、つまり7割が左翼政権下にあったわけです。この地域は時代の変化を生きたのではなく、地域の地政学的地図を本質的に塗り替えた真の力強き変化の時代を生きたのです。

 

しかし2018年に入り、ラテンアメリカの政治情勢は右翼に有利な力関係が強まっており、過去数年と比べ著しい変貌を見せています。それを受けて多くの人が、中南米はいわゆる“革新サイクルの終焉”を迎えたと発言してきました。その意図するところは、右派がアルゼンチンやペルー、コロンビア、チリ、パラグアイ、メキシコ、コスタリカ、ホンジュラス、グァテマラで勝利を収めたことや、ブラジルで巧妙に仕組まれた大統領罷免の後、中道右翼政府が勢力を拡大していることを説明しようというものです。

 

かつて傑出した元首たち、フィデル・カストロやウゴ・チャベス、ネストル・キルチネル、ルーラ・ダ・シルバ、ラファエル・コレア、ダニエル・オルテガ、エボ・モラレスが集まり協力政策や地域対話を定義した時代を否定的に評価し、地域の変革プロセスに生じた一定の逆流を利用して、右翼勢力は社会的・国民的多数のために「勝ちとられた10年」の正当性を奪おうとする主張を懸命に捏造しています。

 

左派からもサイクル終焉論を唱える声が挙がっていますが、それは左翼諸政府及び民族的・国民的諸政府に反対する右翼の主張を補足するものです。これら諸勢力にとって“右翼への転換”なるものは存在せず、むしろ彼らにとっては、左翼が崩壊し、かつて左翼に投票していた人々の願いを代弁することをやめたケースがあったということです。

 

ラテンアメリカ左翼政府の政治運営に向けたこのような批判的な視点は有効かもしれませんが、これらのプロセスが構造的・国際的な制約に対峙せざるをえなかった事実を考慮に入れていません。さらに不利な条件として、政治制度自体が徹底した社会変革に取り組むというよりも、帝国主義に従属した寡頭支配層の特権を保持するために仕組まれており、左翼政府はその枠内で行動せざるをえません。

 

このような主張は右翼の主張及びラテンアメリカ・カリブ海地域で実現した変革が短命であったとする帝国主義的視点と一致するものです。これは同時に、政治の弁証法と社会変革の傾向を持つ社会勢力・運動の歴史的回復力を否定する考え方です。

 

ここで二つの疑問が生じます。左翼運動を生み出した社会的原因が消滅したと確信をもって言えるでしょうか?ここ数年、中南米で政権の座についた右翼政府がいずれも新自由主義政策を導入して成功したと言えるでしょうか?

 

答えは周知の通りです。消滅するどころか、変革プロセスの発生原因は深刻化しました。その背景には経済の縮小が進み、社会的状況が悪化し、新たな統治の危機が深刻度を増して絶え間なく生じていることがあります。新自由主義政策がもたらす災厄は左翼政府の出現に貢献しましたが、今もって存続しているのみならず、再び出現してより深刻なものとなる恐れがあります。

 

一例を挙げると、CEPAL(国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会)によると貧困、脆弱性、格差は依然としてこの地域の構造的な問題となっています。

 

後退、潜在力、展望

いわゆる“保守の復権”はチャベス大統領に対するクーデター失敗事件(2002年)ですでに顔をのぞかせていましたが、時期的には2008年にその姿を現したと言えるでしょう。この年以降、革新諸政府の転覆という民主主義的でない企てが激化し、不安定化を狙った仕掛けが4回(2008年ボリビア、2009年ホンジュラス、2010年エクアドル、2012年パラグアイ)発生し、そのうち2回が成功を収めました。

 

2014年以降は経済サイクルの変化に乗じて、このような動きは勢力を増し、前例のない右翼連合を形成してある種の保守傾向を固めました。国際的な後ろ盾の下、際限のない資源と外国資金を得た結果、右翼は制約も呵責もなく行動できるようになりました。

 

域内の複数の国で左翼が選挙で敗北したのを受け、各地域の寡頭支配層が重要な公職に復活し、理念的・象徴的な面で否定的な影響をもたらしました。その結果、社会政策の多くは緊縮財政策に置き換えられ、革新政府が導入した社会政策は、この地域を襲った深刻な経済危機を受けて遅滞しました。

 

文化的次元でのこの対立は、かつてない水準に達しました。右翼政府の多くはマスメディアによる嫌がらせや事実の歪曲、市民への事実上の脅迫を通じて、選挙民をだます手段に訴えました。それらの右翼政府は当然ながら、世界規模で組織された反撃という形で米国からの一貫した支援を受けました。

 

ベネズエラに対する経済的な嫌がらせ・ボイコットやブラジルの国会クーデター、またルセフ、ルーラ、クリスティーナ(キルチネル)、ホルヘ・グラスのケースで適用された“lowcare”の“訴追”、UNASUR(南米諸国連合)の破壊とCELACの無力化を狙う企て等、いずれも同じ現象を表すものです。マスメディアに関しては、この復権十字軍は次の二つの基本軸に根差しています。左翼の経済モデルが失敗したと仮定する、革新諸政府の倫理観欠如を装う。

 

厳密に言いますと、革新諸政府と左翼勢力一般が過去に犯した過ちについては、各国・各プロセスはそこから教訓を引き出すべきです。しかし今日、過去の過ち、あるいはこれまで直面せざるをえなかった構造的・国際的な制約の他にも、次のような手強い課題に対峙しています。

 

  1. 米国・EUと中南米右翼との強力な連携能力。地域及び多国籍の公的・民間資金を受けている各種財団・NGO・シンクタンクを通じて、革新政府と対立する新勢力・政治的指導層への助言・訓練・育成を行っている。

 

  1. 米国の干渉主義は増大しているのみならず、干渉に乗り出す口実を実に多様化させている。それは麻薬・武器の密輸取り締まりや移民、テロ、社会暴力、治安維持政策の強化及び社会的抗議活動の非合法化にはじまり、定番の民主主義、人権問題まで多岐にわたる。

 

  1. 米国はその国家権力をあらゆる手段、特に軍事的手段と結び付けている。しかし同時に、経済・通商、政治・外交、思想、マスメディア・情報通信分野とも結びつけ、「第4世代戦争」論の適用と一致させ、“体制転換”及び地域の民主的・革新的・解放的革命プロセスの逆行を目論んでいる。

 

  1. 右翼は権力を保障する二つの基本的な手段、すなわちマスメディアと武力を支配している。マスメディアの場合、「法の支配」を「オピニオンの支配」に差し替えてしまった。

 

  1. 太平洋同盟が果たす役割は明確であり、ラテンアメリカ・カリブ海において右翼の立場の中核を成している。この同盟はCELACやUNASUR、ALBA/TCP(米州諸国民ボリーバル同盟/諸国民貿易協定)のような、他の真にラテンアメリカ的な機構を損なうものである。太平洋同盟は他の統合構想に敵対するものでないと言われているが、実際には真のラテンアメリカ統合を害する動きであり、その根拠として米州自由貿易地域(FTAA)構想の復活を内包している。FTAAは2005年アルゼンチン・マルデルプラタで開催された米州首脳会議でラテンアメリカによって否定されたものである。

 

  1. 右翼は、常に米州機構(OAS)及び米州システムに優越性を持たせようと全力をあげているが、これらは地域の課題に対処するのに必要な権威も能力も全く持ち合わせていない。

 

  1. 極めて複雑な問題を取り上げる際に、CELACがその活力と大胆さを失うことで、地域の政治協議の包摂的な場としての役割が弱体化している。その結果、政治的な声明を文書や協定としてまとめることができなくなっている。トランプが中南米をめぐる諸問題で攻撃的な発言を繰り出しても、それに対する反発すら今日、CELACの政治声明として発表することができなくなっている。

 

  1. ALBA/TCP加盟国の一部で政治傾向の変化があったことも、より複雑な諸問題における合意形成に不利に働いている。それに加え、この組織が持つ経済協議の場としての潜在能力や協力プロジェクトの維持能力に期待が持てなくなったことから、一部では代わりとなる参加組織の道を模索し、実現しようとする実利的な視点が優位に立っている。

 

  1. 革新政府及び左翼政府は今もって、自由代議制民主主義のルールを変革するに至っていない。右翼政府が何もやらなかったために批判された一方、左翼政府はすべてをやり遂げなかったために批判された。

 

  1. これら政府の大半は、国内で不利な力関係が支配的となっている状況により、生産の多様化に沿った持続可能かつ経済開発モデルを構築できないでいる。

 

  1. 左翼側が自身の利益のためにマスメディアやソーシャルネットワークを十分には利用しないでいる一方、右翼側は左翼の弱点と逡巡につけ込み、左翼政府の政治運営に反対する世論という図式を作り出している。

 

  1. 左翼組織の側から知的生産が不十分なため、中南米で求められる構造改革に向けた提案を打ち出せていない。

 

  1. 域内の諸多国間機関内部での現在の不利な力関係により、革新政府、とりわけベネズエラ政府に対して外交上の嫌がらせや干渉的あるいは介入的性格の発議が容易に行われるようになっている。

 

  1. フレイ・ベト曰く「実際に革新政府は多くの成果を上げたが、同時に多くの間違いを犯した」。彼の見解によると間違いのひとつは、必要な変革に着手するには、政権の座に就きさえすればよいと考えていたことにある。彼自身の言葉では「ルーラ政権ですべての当該変革プロセスに携わった私自身を含めて、我々の多くは政権を取るイコール権力を握ることだと誤って思い込んでいたが、それは真実ではなかった」。さらに「我々は政権を取ったものの、権力を支配するには至らなかったという事実を賢明に理解しなければならない」と彼は付け加えている。

 

  1. 生活条件の向上にとどまらず、国民の意識を高め、政治参加を促すことが不足していた。

 

  1. カリブ海諸国での政治指導部が変わり、実利主義及び脱思想の傾向が強まっている。

 

現在のラテンアメリカ・カリブ海の左翼はもはや、60年代から70、80、90年代において主流であった机上の理論派あるいは知的左翼ではありません。10年以上政権を担った革新諸政府は具体的な実績を示すことができます。以下、例を挙げます。

  1. 富のより良い再分配、極貧撲滅の顕著な前進。これらは殆どすべての国々で否定できない成功を収めた。先住民運動から都市大衆組織まで、長年排除されてきた幅広い層が政治の主役になることができた。

 

  1. 国家が一定の責務、例えば市民としての権利の拡大、主権及び政治的連帯の回復、等を取り戻したことで国家自体が再評価された。

 

  1. 民主的政治参加の拡大。単なる選挙の数合わせとしてではなく、民主的な場と市民参加の拡大を進める真の変革プロセス。

 

  1. FTAA(疑問の余地なく、米国の対中南米帝国支配が用いる最も危険な中心手段)を葬り去ったALBA/TCPのような基本的組織が発足した。テレビ局TELESURや「人類擁護の知識人ネットワーク」も発足した。

 

  1. ベネズエラ、エクアドル、ボリビアでは国民投票を経て新憲法が制定され、新しい制度基盤ができた。その結果、国家による市場調整機能が復活し、公共サービスが充実した。

 

  1. 左翼の結束は勝利を保障し、政治勢力及び社会運動の解散を防ぐために重要となっている。現在にも未来にも唯一の方程式はありえず、その時々の具体的な政治状況や時代に応じて、様々な可能性が存在することを意識することが前提。

 

 

現実と展望

チリでセバスティアン・ピニェラが勝利したことで、域内における右への決定的な転換、革新サイクルの終焉、及び新自由主義時代への回帰が示されたと決めつける人々もいますが、それは時期尚早です。といいますのは、中南米12ヵ国は今年から来年にかけて大統領選ラッシュに突入します。その皮切りにホンジェラスで先頃選挙が行われましたが、野党側による不正の申し立てがあり、最終結果はまだ発表されていません。コスタリカ、パラグアイ、コロンビア(FARCが政党として初参加)、メキシコ、ブラジル、ベネズエラ(年末実施予定)が続きます。キューバの選挙では指導部の世代交代が見込まれます。さらに2019年にボリビア、アルゼンチン、ウルグアイ、エルサルバドル、パナマ、グアテマラで選挙があります。以下、国別に見てみます。

 

ブラジル、ベネズエラ、コロンビア、メキシコの4カ国の場合、国ごとの特殊性は別として、現政権の続投あるいは交代、及び大陸全体における左翼と右翼の力関係について問いかけています。

 

  1. ブラジルの状況を見ると、地域大国としての立場や現在の国内危機を考慮すると、大統領選は同国のみならず地域全体の将来を左右することになる。それに伴い、域内最大国として域内の主要な機構内で決定的な行動を取ることから、域内全体の傾向を決定するものになる。国内の政治経済危機を受けて、対外政策上の決定は“待機”状態に置かれ、地域組織(そこでは地域大国としてベネズエラと共に強い影響力を行使している)の運営は停止状態となっている。

地域レベルの重要性を認識するブラジルの右翼は現在、ルーラ元大統領の有罪判決と被選挙権停止を含むあらゆる手立てを駆使して、同氏の出馬を阻止しようとしている。汚職事件の宣伝や各種捜査にもかかわらず、ルーラが依然として複数の世論調査で首位に立ち、第2位の極右候補に水をあけている。

 

  1. コロンビアではFARC/EP(コロンビア革命軍/人民軍)が政党に転換した後、和平合意を実行する意志が明らかに欠けている状況の中で、左翼及び革新はその政治能力を証明するという課題に直面している。政府内で右翼が多数派を占めるため、米国・メキシコとの戦略的関係が緊密になり、反ベネズエラの先鋒に立っている。世論調査の発表では混戦模様だが、二人の革新派候補グスタボ・ペトロ、セルヒオ・ファハルドがリードしている。大統領選の前にそのカギとなる国会議員選挙が行われる予定。

 

  1. メキシコの情勢は力強さと流動性を帯びている。背景にあるのは政治家階層への信頼喪失や深刻な制度的汚職・暴力・統治不能、そして結果が不確かなNAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉である。これらが重なって、米国に対して立場が大変弱くなっている。一方、複数の世論調査によると左翼のロペス・オブラドルが首位に立っており、中南米で革新が活気を取り戻す可能性が高まっている。

 

  1. 2期目となるピニェラの当選は必ずしもMERCOSUR、UNASUR、米州機構あるいはCELAC自体、といった域内組織レベルでの目立った変化を意味するものではない。その理由は、チリの対外政策は前任者同様、自由市場とアジア諸国との貿易解放を基本としているため。

 

  1. アルゼンチンでは前述のように、最右翼の政党連合が連邦政府を支配しており、90年代の新自由主義を復活させようと目論んでいる。しかし行政の攻撃的な政策から生じた社会対立が原因で、国としての統治可能性が引き続き揺らいでいる。

 

  1. ウルグアイでは拡大戦線党(Frente Amplio)が政権を維持しているものの、国会では絶対的過半数に達しないため、中道にいくらか移行せざるをえない。拡大戦線党内部の中道右派勢力が、政府内で特に経済・対外政策分野において影響力を保持している。

 

  1. ボリビアの情勢ははるかに望ましいものであるが、ここでも同じように変革プロセスの継続性は未知数である。2016年の国民投票で野党側が勝利したことで、革新・左翼に対する戦争は本質として政治的な性格であり、社会経済上での目覚ましい前進を遂げただけでは変革プロセスの強化にとって不十分であることが明白になった。社会運動と政府の間の対立をきっかけとして、社会対立が激化した。ボリビアもまた、米国の活発化かつ多様化しつつある転覆活動の標的となっている。
  2. エクアドル情勢の特徴は、レニン・モレノ政権が国内政策及び対ベネズエラ政策でコレア前政権と断絶したことにある。このことが、大きな不安を招いている。祖国同盟運動(Movimiento Alianza País)は依然与党ではあるが、本来の党方針から次第に乖離しつつある。経済危機の影響や社会政策の実施速度の低下、その他要素が重なって国としての統治能力が損なわれ、エクアドルのかつての国際的・地域的行動主義がますます失われつつある。

 

  1. 米国の中南米戦略上、中米は依然として要衝であり、基本的にいわゆる「北中米トライアングル」を形成している。グアテマラ、ホンジェラス、パナマ、コスタリカでは右翼勢力が政権を握っている。

 

  1. ニカラグアではサンディニスタ民族解放戦線が変わらず政権を担い、目覚ましい経済成長を達成しているが、国内ではやはり対立が増大している。「対ニカラグア制裁法案」の米議会での可決は、変革プロセスに打撃を与え、弱体化させようと目論む米国及び中南米右翼の利害を如実に示すものだ。

 

  1. エルサルバドルの場合、右翼の執拗な攻撃によって国際的・地域的な立場が弱体化している。 FMLN政府に対し、来年の再選を不安視する見方が強まっている。背景として、統治不能の深刻化や高い犯罪率、治安の悪化、経済戦争、国内の不安定化を狙う動きによって、内政がますます複雑になっている。

 

ラテンアメリカと米国:ますます非対称になる関係

米国の対中南米政策の三本柱は自由貿易、民主主義・統治可能性(ソフトパワー)、安全保障です。共和党、民主党いずれも視点こそ若干違いますが、この3つの分野に専念してきました。トランプの場合、国際場裏でのより単独主義的な行動やより攻撃的な対外政策・安全保障政策によって、米国は重要な軌道修正を迫られました。

 

  1. 新政権の誕生と共に、米国にとってラテンアメリカ・カリブ海の戦略的重要性は低下し続け、同時にその覇権を疑問視する声が強まった。

 

  1. トランプのますます攻撃的かつ単独主義的な発言は、安心よりも不安を生み出した。

 

  1. 二つのビジョンの共存は戦略的には一致するように見えるが、戦術的には異なる視点を反映している。キューバのケースがその良い例である。

 

  1. 米国が域内でかつての経済的優位を急速に失った。もはや原料の域内最大採掘者かつ最大輸入者でもなければ、機械・テクノロジーの最大輸出者でもない。その結果、政治的影響力をも失い、右翼政府すらも含む多くの政府が各々の利害に沿った解決策を模索する道を選んでいる。

 

  1. 米国は自国の目的次第で、敵と味方双方を抑制するため武力の行使、とりわけ武力による威嚇に回帰している。

 

  1. トランプが推進する「アメリカ・ファースト」主義によって、自由貿易や民主主義・統治、安全保障といった問題が変貌し、米国の経済上・国家安全保障上の利害に資する実利的な視点を帯びるようになっている。その結果、トランプが政策を実施する上で、また政治的危機に対処する上で、共和党議員が彼を支持する代わりに、彼らが推し進める問題が優先されるようになる可能性を排除できない。

 

現在の情勢におけるキューバの立場

周知の通り、キューバと米国、双方の国家元首が2014年12月17日、同時に発表した声明は両国関係の転換点となり、両国関係が新しい段階を迎えたことを意味するものでした。それはキューバにとって政治的かつ歴史的に高い重要性を持つ一連の決定がなされたからであり、その一つはラウル・カストロ議長率いる革命世代の指導の下でのキューバ政府の正当性が認められたことでした。

 

これを機に国交正常化に向けた長く複雑な過程、深い挑戦と機会をもたらすプロセスが開始されました。その結果の一例としては外交関係の再開、双方の大使館再開、この種類の訪問としては史上初となるオバマ大統領のキューバ訪問が挙げられます。

 

オバマは経済封鎖に関し運用上の修正を導入するため、広汎な大統領特権を建設的しかし限定的に行使しました。しかし対キューバ封鎖政策及び“体制転換”政策は不変のまま維持しました。つまりオバマの対キューバ政策はその意図と目的を修正するものではなく、戦術的側面を修正したに過ぎなかったのです。

 

トランプは就任後、前任者の対キューバ政策を逆行させる意図を隠すことなく、ラテンアメリカ・カリブ海地域及び国際社会が一致してキューバに賛同していることに明確な対決姿勢を見せ、同時に革命とその制度的枠組みを打倒しようとしています。

この政策見直しの主要な特徴は次のとおりです。

  • 対キューバ政策の見直しは5か月以上に及びその間、公的交流は移民関連及び航空安全上のものを除き凍結された。

 

  • 見直し作業を通して深い分裂が浮き彫りになり、内外勢力の衝突という形で表れた。一方ではマルコ・ルビオ上院議員とマリオ・ディアス=バラルト下院議員(フロリダ州選出、共和党)からの直接の圧力があった。他方、省庁からはオバマ政策の維持に賛同する総意が示された。

 

  • 見直しは幅広い国民的論議を呼び、その中でオバマ政策に賛成する意見が多数派を占めた。

 

  • ルビオとディアス=バラルトの強い影響下でトランプが取った最終的な決断は一方では、オバマ政策の廃止(ルビオ)、選挙公約を守る(トランプ)という両者の利害の一致を反映するものであった。他方では、政治的な貸し借りであった。つまりルビオがロシア疑惑の捜査に協力する見返りとして、トランプがキューバ政策の逆行に協力するというものであった。

 

  • さらに反キューバ派の政治的影響力の明らかな弱体化が浮き彫りとなった。

 

変更点

  • キューバ革命軍や内務省の関連企業との金融取引の禁止
  • 「ピープルto ピープル」交流カテゴリーのもとでの米国市民の個人でのキューバ渡航廃止と渡航者の管理強化
  • 国連やその他の国際会議における経済封鎖解除に向けた行動への反対
  • ビザ発給や送金の禁止対象となるキューバの政府関係者リスト拡大
  • 過去の反キューバ転覆計画をすべて見直し、その有効性を保障する。
  • オバマ前大統領が2016年10月に発表した“米国とキューバの国交正常化”大統領令の廃止

 

継続点

  • 外交関係及び大使館の維持
  • 移民協定及びそれ以外の締結済み協定の維持
  • 相互の関心事項、特に安全保障問題における協力
  • 航空定期便・クルーズ船の就航、郵便
  • 経済封鎖の一部運用を修正するためのその他の施策

 

要約

  • トランプ政策によって両国関係に深刻な後退が生じた。実際に、発表された施策は対キューバ封鎖をその域外適用性も含めて強化するものであった。
  • 彼の発言は両国間の雰囲気を悪化させ、両国関係の対立リスクを増加させた。その結果、転覆活動や反革命支援も活発化することが予想される。インターネット上にタスクフォースを編成して、キューバの不安定化をもたらすメッセージを流し、キューバ政府の制度的枠組みや正当性を攻撃している。

 

  • キューバは再び、米国の内政上の利害に基づいて利用された。安全保障上、外交上の利害も最終決定に影響を与えはしたが。

 

  • マルコ・ルビオ上院議員は最近再選を果たし、トランプが脆弱で自分を必要としていると見れば、圧力を行使し続けることができる。

 

  • トランプの言明への反発が広がったことで、極右キューバ系アメリカ人の孤立が深まった。

 

  • トランプは“冷戦”を口にしているが、彼のキューバ問題に関する行動余地は極めて狭い。それは数々の試みにもかかわらず、実際にはオバマ時代の前進を逆行させるには至っていないことから明らかである。同時に、キューバへの歩み寄り政策に対する社会的基盤及び両党からの支持が拡大し多様化した。

 

  • 国内に目を向けると、キューバはこれからも国民の圧倒的多数から、いかなる犠牲を払っても支持される社会主義建設を続ける。対米関係においては引き続き、暗黙の挑戦と機会に対峙する覚悟がある。その際に社会体制や主権、独立を交渉の道具とすることは決してない。

 

結論

域内政治における右への巻き返しによって、左翼政府の政権運営及び対外政策は複雑さを増しているが、これらの政府が協調してボリバル革命及び域内革新政府の積極防衛にあたるのを妨げるわけではない。

 

ベネズエラ、コロンビア、ブラジル、メキシコでの今年の選挙結果は、現政権の続投あるいは交代、及び地域全体における左翼と右翼の力関係を左右する。この4カ国いずれについても、現時点では確実な結果は読めないが、可能性の高い傾向は存在する。

 

右翼がその攻撃をやり尽くしたとは言えないものの、論争の条件は確実に整い、左翼は新自由主義を克服し、より平等な社会及び主権国家を建設するプロセスを実行する新たな可能性を手にしている。今年末、ラテンアメリカ・カリブ海の地図は異なる様相を呈しているかもしれない。

 

その実現のためには、政策及び政権運営に関して団結することが急務となる。団結してこそ、帝国主義及び域内寡頭支配層の攻撃に立ち向かうことができる。これまでよりもさらに、多様性に基づく団結でなければならない。

 

昨年ニカラグアで開催されたサンパウロ・フォーラムでは、“我らがアメリカ・コンセンサス”文書が承認された。文書中、「いかなる場合も政治上や選挙で被った逆境を嘆くときではない。だからこそ我々は、社会主義の未来を目指して前進を続けるために、民主的・国民的陣営に有利な力関係を作りだす社会的・政治的蓄積を重視することを提案する」と明記されている。

 

域内の革新政府は左翼勢力・社会運動の団結によりいっそう取り組み、帝国主義及び域内寡頭支配層の攻撃に立ち向かわねばならない。

 

地域統合プロセスの団結と継続を推進するという基礎に立ち、可能な限り右翼政府との関係維持、及び右翼勢力との共通の利益の維持に努めなければならない。右翼を引き付けるような統一的かつ包括的なアジェンダをめぐるCELACとUNASURの再活性化は緊急の優先事項である。

 

 

結びにあたり、ある永遠のテーマについてお話します。フィデルの考察のひとつに団結のコンセプトに関するものがありますので、ご紹介致します。2008年にルーラがキューバを訪問した際に彼に捧げた“ルーラ”(第一部)という考察から引用します。「私にとって団結とは、闘いや危険、犠牲、目的、思想、概念と戦術に関し、討論と分析を通じて共有するに致ることである。」

 

ご清聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

Categoría
Solidaridad