キューバをめぐる日本の公共的議論:ナラティブと情報上の課題の分析新藤道弘教授

日本において、最近キューバ事情について、いろいろ報道されていますが、問題点を感じるものが少なくありません。その三つを問題にしたいと思います。

 

一つ目は、4月17日に行われた、「衆議院外務委員会での国民民主党無所属クラブの深作ヘススによる質疑応答」における問題です。

 

深作議員は、質疑の核心部分として、「米国務省がアメリカの議会に対し提出をした報告書によると、今常に1,000から5,000人のキューバ人が戦闘に加わっている」、「ウクライナの情報総局の推計で、すでに累計で10,000人から25,000人のキューバ兵がロシア軍に加わっている。キューバは北朝鮮に次ぐ規模の外国人戦闘員の供給国と見なされている。政府は、この事実を認識しているか」と質問しました。

 

これに対し、政府は、外務省の石瀬中南米局長が、「キューバがロシアに最大人の戦闘員を提供しているとの報告書をトランプ政権がまとめたという米国メディアによる報道については承知しております。一方で、キューバ政府は昨年10月に外務省声明を発出し、ロシアによるウクライナ侵略へのキューバ政府の関与を否定していると承知しておりますが、日本政府としてその事実関係は確認できていない」と判断を回避しています。

 

事実については、キューバ外務省は、昨年10月11日声明で、「キューバはウクライナの武力紛争の当事者ではない。軍人を派遣していない。トランプ政権の狙いは、11月に開催される国連総会で、キューバに対する経済・通商の封鎖を非難し、その解除を求める決議案が加盟国によって採決される際に、キューバに賛成する票が大量に投じられることを防ぐことにある」と述べています。

 

紛争には確かにキューバ人が参加していますが、彼らは、個人の資格で、双方の陣営に属しており、ほぼ全ラテンアメリカの人々と同様に、月額500ドルで傭兵産業に採用されている人たちです。つまり、現地にいるペルー人、アルゼンチン人、コロンビア人、メキシコ人も、それぞれの政府を代表して参加しているわけではありません。さらに、キューバ政府は、2023年から2025年にかけて、外国の民兵組織に採用された40人のキューバ人が傭兵行為の罪で逮捕・起訴しましたし、ウクライナ戦争のためのキューバ国内での採用活動は、禁止しています。

 

国会の議論では、こうした基本的な事実を踏まえて、深作議員には議論を展開してほしいものです。

 

なお、茂木外務大臣は、この外務委員会の議論で、「日本は、キューバとの2国間の良好な関係から、昨年11月のハリケーン被害についても緊急人道支援を実施した。現在の極めて厳しいキューバ国民生活を踏まえて、またキューバとの伝統的な友好関係にも鑑みて、人道的な観点からキューバ国民に対する支援を続けていきたいと考えている」と述べていますが、外務省の発表ニュースでは、問題の緊急性にもかかわらず、未だ実現していません。高市首相は、「世界に平和と繁栄もたらせるのはドナルドだけ」と首脳会談でトランプ大統領を持ち上げ、抱きつき追従外交を展開していますが、官邸と外務省の調整は困難なようです。

 

二つ目は、4月21にNHKで放送された「クローズアップ現代」の内容です。停電の影響で辺り一面暗闇に包まれた首都ハバナの夜、カセロラソと呼ばれる伝統的な抗議、休業状態のガソリンスタンド、ゴミ収集車が稼働できないため、路上に散乱したゴミ、病院では医療機器を動かす電力が不足し、この数ヶ月で10万件近くの手術が延期されたとなど、危機的な状況が紹介されます。

 

さらにトランプ政権が、キューバ政府の収入源を絶つために、外貨獲得の手段としている2万人以上の医療従事者の受け入れを停止するよう各国に要請し、受け入れを停止する国が相次いでいることが紹介されます。

 

つづいて、番組は、キューバ政府は、一極集中の強権的な政治体制で経済活動などを管理下に置く一方、反体制派に対しては弾圧を繰り返してきたと指摘し、弾圧を逃れ、アメリカに亡命したキューバ系住民の中で、キューバの民主化を目指す団体を率いるロサ・マリア・パヤが、トランプ政権の姿勢を支持しているとナレーションは述べます。ロサ・マリア・パヤは、「キューバは数十年にわたって人道危機状態にあったことを理解するべきです。(現指導部が)退陣し、民主主義が実現するまで圧力を強めていくべきだと思っています」と主張します。彼女は、マルコ・ルビオ国務長官によって推進され、今年3月米州人権委員会委員に選出された、反キューバの先兵を務めている人物です。こうしたいわくつきの人物の主張を引用して、キューバにいる革命支持派の人々の主張を引用しないのは、まったくバランスを欠く構成です。

 

キューバ側の主張としては、「私たちは戦争を望みません。アメリカにその意思があれば、政治的な対話で解決できます。最近ではベネズエラやイランで起きたことを知っています。必要ならば最後の最後まで抵抗し続けます」という、キューバ国連次席大使の言葉が挿入されているだけです。

 

番組は、コメンテーターとして、アメリカ政治に詳しい小谷哲男氏(明海大学外国語学部教授)と元駐キューバ大使の渡辺勝氏(成蹊大学客員教授)の二名を招いて見解を聞いています。

 

小谷氏は、「キューバは六年以上にわたってアメリカと敵対関係を続けてきました。 近年は中国やロシアなどとの関係も深めてきましたので、中南米におけるまさに反米勢力のラスボス的な存在で、そのラスボスのキューバを倒すことができれば、ベネズエラに加えてニカラグアなど他の反米諸国もアメリカにすり寄ってくるだろうということを考えていると思います」とコメントしています。

 

渡辺氏は、「キューバの今の指導部が守りたいものは、共産党が指導する体制の維持だと思います。キューバは、これまでアメリカによる民主化の要求、経済解放の要求はかたくなに拒み続けてきました」と述べています。現在の指導部が守りたいのは、革命の成果であることを理解していない発言です。

 

小谷氏は、イラン問題でテレビに度々出演していますが、その発言は、トランプ政権よりのものです。また渡辺氏は、自由で開かれたインド太平洋国際秩序を推進する立場にたっており、自民党と近い立場にあります。小谷氏だけでなく、三牧聖子氏、あるいは前嶋和弘氏のようなもっとバランスの取れた研究者を、また元駐キューバ大使としては、西林万寿夫氏のようなキューバの主張も正しく理解する人を選べば、より客観的なコメントを得られたのではないでしょうか。

 

この番組で全く触れられていないのは、アメリカの歴代政権、特にトランプ政権が、キューバの主権と自決権を認めないことが、米玖対立の根源であることです。そして、1962年以来のアメリカの経済封鎖に加えて、トランプ政権のキューバのテロ支援国家リスト掲載、石油封鎖政策、最近一層過激になっているキューバ政府崩壊の恫喝が、国際法、国連憲章に違反することも、全く言及されていません。

 

小谷氏は、アメリカが、キューバに対して軍事行動を取ることもありうるとのべていますが、

世論調査では、米国人の40%がキューバに対する長期にわたる経済封鎖に反対しており、61%が米国によるキューバへの軍事力行使に反対している一方、同程度の割合が米国によるキューバとの公式関係の維持を支持していると報告されています。

 

米玖対話の相互の主張は、つぎの通りです。

 

アメリカ側

キューバの内部問題を要求

キューバ側

キューバの内政干渉の中止を要求

キューバ政治犯の釈放(ルイス・マヌエル・オテロ・アルカンタラやマイケル・オソルボも含む)

イラン政府、ハマス、ヒズボラを含む、米国に敵対する敵対国、国際テロ組織、悪意ある勢力と連携し支援を止める

ディアスカネル大統領の辞任

キューバの体制転換

衛星通信サービス「スターリンク」接続の許可

自由な選挙の実施

キューバにおける米国資本の投資の許可と保証

革命後の国有化された米国企業の保証

グアンタナモ海軍基地の返還

経済封鎖、石油封鎖の解除

テロ支援国家指定の解除

経済封鎖、破壊活動の損害の補償

キューバの主権の尊重、内政不干渉

対キューバ謀略放送の停止、反政府勢力の破壊活動支援の停止

人権問題、話し合う用意あり。米国はなぜ、国連の「子どもの権利条約192カ国加盟」、「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約187カ国加盟」を批准していないのか。人種差別、警察権の乱用など米国に問題あり。

 

キューバは、バチカンの仲介と大規模な恩赦(2,000以上)を通じて政治犯や一般囚人を釈放し、民間企業に対する規制を緩和し、米国在住のキューバ人との働きかけを行っています。

両国が、キューバ政府が主張するように、主権と自決権、相互尊重、内政不干渉の原則に基づいて、対話を行えば、真の友好的な関係が樹立できるでしょう。

 

三つ目の問題は、22日付の 朝日新聞に掲載された、「世界発、『自由なキューバ』高まる期待、米マイアミ在住移民たちの願い(畑宗太郎記者)」という記事です。

 

同記事は言います。「米国のトランプ大統領がベネズエラやイランに続いて、カリブ海の社会主義国キューバに圧力を強める意欲を示す中、米国に住むキューバ系移民の間で、母国の政治的変化に期待が高まっている」。

 

「キューバでは59年の革命以来、一党独裁が続く。米国には母国の「解放」を望む移民が押し寄せ、フロリダはその中心的存在となってきた」。しかし、畑記者は、具体的にどういう点で独裁政権というのでしょうか。キューバが一党制を敷いたのは、米国の干渉が激しいため、総動員体制を敷く中で決められた歴史的経緯を理解しなければなりません。一党制からくる問題を、キューバ政府は、国民との対話、国民の参加によって緩和しています。トランプ大統領のような大統領により、キューバへの石油封鎖を行ったり、イランへの戦争を行うような民主主義は、キューバにはありません。

 

「トランプ氏の発言にはこうした人々への配慮が目立つ。彼らは(キューバ政府から)ひどい扱いを受けてきた。多くの在米キューバ人は、トランプ氏のこうした強硬姿勢を歓迎する」と記事は言います。しかし、トランプ大統領が配慮しているのは、フロリダにいる一部の過激な反キューバ勢力に対する配慮です。また、先に引用しましたが、世論調査では、米国人の40%がキューバに対する長期にわたる経済封鎖に反対しており、61%が米国によるキューバへの軍事力行使に反対している一方、同程度の割合が米国によるキューバとの公式関係の維持を支持しているのです(26.04.24 Granma)。

 

「米国はキューバヘの原油供給を周辺国からのものも含めてほぼ断ち、劇的に圧力を強めている」。と、畑記者は、平然と述べていますが、これは、国際法、国連憲章に違反する行為であることを記者は知らないのでしょうか。

 

「ラルフ・ファーンさん(71)は『父は経営していた農場を突然、政府に接収されそうになり、反対したら逮捕された。共産主義は追い出すべきだ』と話した」と畑記者は引用しています。しかし、キューバ政府は、革命以来、第一次農業改革法(1959年)、第二次農業改革(1963年)法において、大土地を収用した(接収ではありません)ことはありますが、突然、補償なく接収したことは、決してありません。

 

「哀愁漂うキューバ音楽のライブ演奏が流れるバーで、カウンターに立っていた店員の女性(40)は『ルビオ氏は信頼できる。きっと話し合いでキューバを変えてくれる』と期待を語った」と記事にはありますが、トランプ政権で、対キューバ政策で体制転換を求める最強硬派がルビオであることを、どう考えるのでしょうか。

 

「フロリダ国際大学キューバ研究所のセバスティアン・アルコス所長代理は、『自由なキューバ』の実現が多くの出身者の願いだとし、『旧ソ連がキューバを保護下に置いていた冷戦期と異なり、米政府は直接的に変化を起こし得る立場だ』と述べた」と引用しています。しかし、ここには、キューバの主権、自決権が全く尊重されずに議論が展開されています。米政府は、直接的に変化を起こし得る立場にはないのです。変化を起こすのは、キューバ国民であり、米国政府ではないのです。

 

(2026年4月26日 新藤通弘記)

 

 

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